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ぜにがたへいじとりものひかえ

銭形平次捕物控(五)金の鯉

野村 胡堂

Read 銭形平次捕物控(五)金の鯉 (ぜにがたへいじとりものひかえ) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 136,062 characters · 276 screens

Aozora Bunko

「…………」

「故郷の伊勢へ帰った時は、鳥羽へ遊びに行って、松風村雨気取りの海女姉妹を手に入れ、さんざん弄んだ挙句、江戸まで跟いて来られ、一と騒ぎやったとか、――箱根の湯女に追っかけられて、命からがら江戸へ逃げ帰ったとか、独り者の気楽さも手伝って、底も果てもない放埒でした」

「それが、厄介なことに楊弓、賭け碁、釣と、女道楽の片手間にやります。――今日なども現に、同じ札差の道楽仲間、お蔵前の板倉屋忠兵衛に冷かされたのが基で、午刻過ぎから暮六つまでに、十匹釣ったら板倉屋が百両で買ってやる、十匹が一匹欠けても、伊勢屋が百両出すという約束で、六つの鐘が鳴るまで、――四方はもうすっかり暗くなったのも構わずに、血眼になって釣っていたのだそうです」

「十匹釣れたのか」

と平次。

「九匹まで釣ったそうですよ、――あと一匹という時、暗くなりかけた水の中に、何か光る物があったんだそうです。伊勢新が乗出して覗いたところを、水の中から、毛むくじゃらな手が出て引込んだというんです」

若松は平次の立っているあたりを指しました。紬の座蒲団は少し斜めになって、その下に敷いた茣蓙は、水へ二三寸落ちかけておりますが、皎々と照らされた材木の上にも、敷物にも血の痕などは一つもありません。