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ぜにがたへいじとりものひかえ
銭形平次捕物控(五)金の鯉
野村 胡堂
Read 銭形平次捕物控(五)金の鯉 (ぜにがたへいじとりものひかえ) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 136,062 characters · 276 screens
「八、ここから入るんだ」
「大丈夫ですか、親分、見付かったら百年目ですぜ」
「馬鹿だなア、相手は旗本だと思うと遠慮もあるが、当主は病人で、威勢を揮っているのは、遊芸より外には何にも知らない弟の滝三郎と、その倅の文五郎という役者みたいな男だ。見付かったって命に拘わるような事はあるものか」
「なるほどね」
二人は小声で無駄を言いながら、寺の裏を通って、木立の奥へ深く入って行きました。物がみんな銀鼠に見えるような、朧の桜月夜、女の悲鳴が聞えなくとも、何となく怪談めかしい道具立です。
「親分」
「シッ」
ガラッ八は、いつの間にやら平次の袖を押えておりました。
「あれですよ、――あの声ですよ」
「…………」
平次も気が付いておりました。木立の向う、屋敷の裏手のあたり、月の光が淀んだように、青白く見えるのは、たぶん咲きかけた桜でしょう。ちょうどその中から、世にも物悲しい女の泣き声が、苦悩に引き千切られながら、絶え絶えに聞えるのでした。
「親分、あれですよ」
「黙らないか、八」
言い甲斐もなく胴顫いするガラッ八の手をふりもぎって、平次は忍び足に、その声の方へ近付きました。
「大丈夫ですか、親分」