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ぜにがたへいじとりものひかえ

銭形平次捕物控(六)結納の行方

野村 胡堂

Read 銭形平次捕物控(六)結納の行方 (ぜにがたへいじとりものひかえ) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 142,597 characters · 289 screens

Aozora Bunko

藁束の気で人間を切りやがる」

平次も何となく暗い心持でした。町方の御用聞の平次には、自分では指もさせないだけに、武家の切捨御免が癪にさわってたまらなかったのです。

「辻斬りでしょうか」

「いや、――辻斬りが死骸を家まで持って来るはずはない」

「物盗り?」

八五郎は日頃平次に仕込まれた通り、一応常識的な疑いを並べます。そのくせ腹の中には、そんな手軽なものじゃあるまいといった、直感らしいものが根を張っているのです。

「何にも盗られた様子はありません。見れば、財布もあるようですし」

涙の隙からお北は言います。

「八、財布の中を見てくれ」

八五郎は紅に染んだ死体の首から、財布の紐を外しました。死んだ女房が夜業に縫ってくれたらしい縞の財布の中には、青銭が七八枚と、小粒で二分ばかり、それに小判が一枚入っているではありませんか。

「これは迷子札ですよ、親分」

「親方はもう六十だろう、迷子札は可怪しいぜ、読んでみな」

小判形には出来ていますが、よく見ると真鍮の迷子札で、

甲寅。四月生、本郷大根畑

左官伊之助倅 乙松

と二行に書いて、その下に十二支の寅が彫ってあります。

「父さんの迷子札じゃねえ、こいつは行方不明の乙松のだ」