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ぜにがたへいじとりものひかえ
銭形平次捕物控(十四)雛の別れ
野村 胡堂
Read 銭形平次捕物控(十四)雛の別れ (ぜにがたへいじとりものひかえ) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 114,139 characters · 233 screens
「頼まれた品でございますよ、旦那」
客の筋が尋常ならずと見て、古道具屋の親爺も少し乗出しました。
「箱や袋はないのかな」
「それが揃っていれば、大道へ出る品じゃございません、ヘエー」
親爺もさすがに心得ております。それに内箱外箱、御袋など一と通り揃っていると、これは大変なことになります。
「いくらに売る気だ」
山右衛門は気を引いてみるような調子で恐る恐る訊きました。
「少しお高うございますよ。頼んだ方は五十両に売ってくれと申しますが」
古道具屋の親爺もそこまでは眼が届かない様子です。
「えッ、五十両?」
「だから私は、そんな無法なことを言うのは嫌だと断ったんで、夜店の品で五十両は少し桁が外れますが――」
「いや、高い安いを言っているのではない、五十両なら私は買おう。が、縁日を冷かすのに、そんな大金を持っているわけはない。すぐ家へ取りに行って来るから、誰にも売らないようにして貰いたい」
「ヘエヘエそれはもう」
「これはほんの少しだが、今晩一と晩だけの手付けのつもりで預けておく。いいかえ」
山右衛門は懐ろから財布を出して小判で三両ほど置くと、大急ぎで引返しました。
茶道に遊ぶものの冥利、一度は手に入れたいと思った井戸の茶碗が、こんな機縁で、たった五十両で手に入るというのは、全く夢のようです。