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ぜにがたへいじとりものひかえ

銭形平次捕物控(十四)雛の別れ

野村 胡堂

Read 銭形平次捕物控(十四)雛の別れ (ぜにがたへいじとりものひかえ) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 114,139 characters · 233 screens

Aozora Bunko

銭形平次捕物控

一

一

三河町一丁目の大元締、溝口屋鐘五郎の家は、その晩割れ返るような賑わいでした。親分の鐘五郎は四十三歳、後厄の大事な誕生日を迎えた上、新たに大大名二軒の出入りを許されて、押しも押されもせぬ、江戸一番の人入れ稼業になった心祝いの酒盛りだったのです。

集まった子分は三十八人、店から奥へ三間ほど打っこ抜いて、底の抜けるような騒ぎ。――十六基の燭台、二十幾つの提灯に照らされた酒池肉林は、歓楽極まって浅ましい限りでした。

親分の鐘五郎は、しばらくこの有様を眺めておりましたが、あまり強くない酒を過したのと、このうえ頑張っていると、子分どもの感興を妨げることに気がついて、上座の子分二三人に目顔で合図をしてそっと起ち上がりました。ここから廊下つづきの自分の部屋にかえって、静かに休むつもりだったのでしょう。

子分の勘次と六助は、早くも気がついて、親分の後に従いました。

「いいよ、休むのは独りの方が気楽だ。――お前たちの姿が見えなくなったら、後が淋しかろう。帰ってゆっくり飲み直すがいい」

薄暗い廊下の端っこ――自分の部屋の入口に立って、鐘五郎は手を振りました。鬼の鐘五郎と言われた酷薄無残な男ですが満ち足りた今宵ばかりは、さすがに鷹揚な心持ちになるのでしょう。