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ぜにがたへいじとりものひかえ
銭形平次捕物控(十四)雛の別れ
野村 胡堂
Read 銭形平次捕物控(十四)雛の別れ (ぜにがたへいじとりものひかえ) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 114,139 characters · 233 screens
四
「捕まえましょうか、親分」
「馬鹿、御神籤泥棒じゃ引っ立てばえもあるまい。――黙って後をつけるんだ。落着く先を見極めさえすれば、わけもなく眼鼻がつくよ」
「それじゃ親分」
「抜かるな、八」
「なアに、二本差でなきゃ、たかが知れていますよ」
八五郎はヒラリと身をひるがえすと、怪しの男が平内様の堂を離れるのと一緒でした。二人は仲見世の人混みの中を縫って、雷門の方へ泳いで行くのを、平次は何か覚束ない心持で見送っております。
四
その晩、平次の家へ戻って来たガラッ八の八五郎は、申分なくさんざんの態でした。
「あ、驚いた。親分の前だが、あっしはまだ、あんな野郎に出っくわしたことはありませんよ」
自分の髷節は横町の方に向いて埃をかぶり、意気な袷はしま目も判らぬほど泥に塗れて、全身いたるところに傷だらけ、それがお勝手口からコソコソとでも入ることか、町内に響き渡るような声を張上げて、平次のいわゆる大玄関に、立ちはだかるのです。
「何という恰好だい、裏へ廻って泥だけでも落すがいい――お静、俺の袷を出してやれ、一番野暮なのがいいよ、身につかないものを着るとろくなことはないから」
口小言をいいながらも、ともかくも男振りだけでも直して、長火鉢の前に据えました。