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ぜにがたへいじとりものひかえ
銭形平次捕物控(十四)雛の別れ
野村 胡堂
Read 銭形平次捕物控(十四)雛の別れ (ぜにがたへいじとりものひかえ) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 114,139 characters · 233 screens
「淋しいと思っても仕方がありません。それに、出代りで、今日はお文が帰ることになっています。あんなに私へよくしてくれたのに――」
お琴は本当に淋しそうでした。が、平次も慰めようはありません。
飯炊きのお今は四十がらみの相模女で、これは何の技巧も上手もない女。
「けさ栄吉が土蔵の戸を開けてから、誰か入ったものはなかったのか」
平次の問いに対して、
「あったかも知れないが、ここからは見えませんよ」
「お前は機を織ったことがあるかい」
「ありますよ。田舎で育ったものは、一と通り嫁入り仕度に稽古しますだ。私は木綿機しか知らないが、お文さんは絹機も上手に織ったそうですよ」
お今の答えから、唐櫃を落した仕掛けの綱の結び目のことを、平次は考えていたのです。
それからまた家中の者を訊き廻りましたが、朝の一と刻は忙しいので、誰が倉へ入ったか見定めた者もなく、平次の骨折りも何の収穫もありません。たぶん唐櫃は前々から移しておいて、今朝ちょっとばかり仕掛けをして落したのでしょう。
最後に逢ったのは下女のお文、十九というにしては柄も大きく、色の浅黒い、聡明そうな娘で、目鼻立ちもキリリとして、美しいというほどではなくとも、何となく人に明るさと頼母しさを感じさせます。