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ぜにがたへいじとりものひかえ
銭形平次捕物控(十四)雛の別れ
野村 胡堂
Read 銭形平次捕物控(十四)雛の別れ (ぜにがたへいじとりものひかえ) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 114,139 characters · 233 screens
「それじゃあんまり」
「いいってことよ、みんなの気の付かないうちに帰ってくれ」
「それじゃ、親分」
「あとを頼むよ」
「お休みなさいまし」
勘次と六助は、親分の鐘五郎が唐紙を開けて自分の部屋に入るのを見定めて、もとの酒宴の席に帰ったのです。それがちょうど亥刻(十時)――上野の鐘が騒ぎの中を縫って、響いているのに気が付きました。
「忌々しいじゃないか。――裏の臆病馬吉奴、まだ尺八を吹いてやがる」
勘次は大きく舌打ちをしました。もとは飯田町の伏見屋伝七の身内で、勘次や六助と同じ釜の飯を食った臆病馬吉という男が、伏見屋が没落した後、勘次や六助が溝口屋の身内になって、相変らず威勢の良い暮しをしているのに、甲斐性がないばかりに日傭取にまで身を落し、好きな尺八一管を友に、溝口屋の裏に住んで見る影もなく生きている馬吉だったのです。
「宵から息もつかずに吹いているよ。どうせ臆病馬吉の芸当だから、糸に乗るような代物じゃねえが、こちとらの酒までまずくさせるのは業腹だね」
「――おや、今晩はいつもよりうめえようだが――」
「うまくたって、女を口説く足しにはならねえよ」
「違えねえ」
「ハッハッハッ」