Japanische Klassiker mit Furigana
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しゅんでい
春泥・三の酉
久保田 万太郎
Lesen Sie 春泥・三の酉 (しゅんでい) von 久保田 万太郎 (くぼたまんたろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 86.075 Zeichen · 173 Bildschirme
五
「うん。」
「お医者さまを呼びましょうか?」
「うん。」
いそいでかの女は枕許を立って行った。
「すまねえ。――すまなかった……」
かの女の足音の階子段の下へ消えて行くのを聞きながら掻巻のかげで密にかれはこういった。――柳橋で稼業していた時分のかの女のすがたがはッきりかれのまえに返って来た。――おもえば苦労し合った仲である……
ちょうどその、「菊の家」で田代が鯛チリの鍋をひかえて一杯はじめた時分。――八丁堀の空にも雨はふっていた。……みぞれをまじえたその雨がかれの耳にも冷々と音を立てゝいた……
五
が、あの日のビショ/\したけしきに引替えて何という今日は馬鹿な天気だろう。真っ青に晴れた空、うら/\とした明るい日影。……おかげで料簡がカラッとする。――かれは床の上を離れて窓のそばに立った。そうしてみるともなく外の光景……バラックの屋根とラジオのアンテナとの錯綜のかぎりなく打続いた光景……でも、それは、かれの二十何年というものそこに住みつゞけた馴染のふかい町々のうえをみ渡した。大通りからやゝはずれた新みちのなかだから電車の音も響いて来ない、自動車の音も聞えない。