Japanische Klassiker mit Furigana
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せいしゅんのぎゃくせつ
青春の逆説
織田 作之助
Lesen Sie 青春の逆説 (せいしゅんのぎゃくせつ) von 織田 作之助 (おださくのすけ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 162.593 Zeichen · 325 Bildschirme
もう日が暮れていた。
「落てへんわいな」と豹一はわざとふざけた声で言い、それが夕闇のなかに消えて行くのをしんみり聴いていた。ふわりと体が浮いて、人力車は走り出した。だんだん暗さが増した。ひっそりとした寺がいくつも並んだ寺町を通るとき、木犀の匂いが光った。豹一は眩暈がし、一つにはもう人力車に酔うていたのだった。それが恥しく情けなかった。梶棒の先につけた提灯の火が車夫の手の動脈を太く浮び上らせていた。尋常二年の眼で提灯に書かれた「野瀬」の二字を判読しようとしていたが、頭の血がすうすう引いて行くような胸苦しさで、困難だった。その夜、一人で寝た。
蒲団についたナフタリンの匂いが何か勝手が違って、母親のいない淋しさをしみじみ感じさせた。泣けもしなかった。小さな眼で意味もなく天井を睨んでいた。母は階下で見知らぬ人といた。野瀬安二郎だと、あとで判った。
野瀬安二郎は谷町九丁目いちばんの金持と言われ、慾張りとも言われた。高利貸をして、女房を三度かえ、お君は四番目の女房だった。ことし四十八歳の安二郎がお君を見染めて、縁談を取りきめるまでには、大した手間は掛らなかった。