Japanische Klassiker mit Furigana
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えどさんごくし
江戸三国志
吉川 英治
Lesen Sie 江戸三国志 (えどさんごくし) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 577.271 Zeichen · 1141 Bildschirme
ひやりとしたように、彼女のひとみが自分の肩越しにうしろを見ると、
「やっぱり、お蝶さんですね」
と、男は、左の肩にのせていた物を、右の肩にのせかえました。
それは、箒のように藁を束ねた俗に「べんけい」という物で、そのべんけいには子供がよく空へ舞わせて遊戯する竹の蜻蛉がいくつも刺してありました。
お蝶は、いぶかしさと、油断のない要心をひとみに沈めて、
「あら? ……」
「お蝶さんでしたね。あなた様は」
「わたし、お前さんみたいな人を知らないけれど……だれなの? 一体」
「わたくしですか。わたくしはその、とんぼ屋久助という旅商人でございます」
お蝶がいぶかしそうな顔をしているのにかまわず、とんぼ売りの久助は、旧知のような口ぶりで、
「ところで切支丹屋敷のお嬢さん。折入って、あなたにお話があるんですが、ちょっと私と一緒にその辺までお徒歩なすって下さいませんか。……なあに、お話すればすぐわかることで」
と、竹とんぼを挿したべんけいを担いでスタスタと先に歩き出しました。
切支丹屋敷のお嬢さんだって?
久助は今たしかにそう言いました。どうしてそんなことを知っているのだろうか、見たことも聞いたこともない蜻蛉売りが……と、お蝶は勿論ためらいました。