Japanische Klassiker mit Furigana
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へいけがに
伝奇ノ匣2 岡本綺堂妖術伝奇集
岡本 綺堂
Lesen Sie 伝奇ノ匣2 岡本綺堂妖術伝奇集 (へいけがに) von 岡本 綺堂 (おかもときどう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 203.094 Zeichen · 411 Bildschirme
「城はみな焼け落ちたというに、どうしてこの広書院だけが燃え残ったのであろうかのう。」と、藤次郎はまたささやいた。
「城の衆は皆ここに居列んで、一度に腹を切ったので、天井や襖にもなまなましい血が飛沫いていたとかいう話じゃ。」と、雉六は薄気味悪そうに答えた。「しかしもう二十年あまりも過ぎたので、その血の痕も大方は消えたであろう。折角ここまで来たものじゃ。後の話し草にもう少し奥まで蹈み込んで見ようではないか。」
兄もうなずいて、うす暗い中をたどって行くと、百畳敷という広書院は墓場のように鎮まり返って、二人の足音におどろく鼠すらも棲んでいないらしかった。それでも二人は猟矢と弓とをしっかりと握りしめて、息を殺して忍んで行くと、冷たい湿っぽい空気が身にしみて、二人は顫えあがる程に寒くなった。
「だんだんに暗くなって来た。」と、雉六は足音を偸みながらささやいた。「あの広書院には赤松殿の亡魂がまことに棲んでいるであろうか。」
「さあ、おれにも判らぬが、世にはそのようなことが無いとも限らぬ。」
言いかけて、藤次郎は小声であっと叫んだ。彼の片足は朽ちた床を蹈みぬいて、あやうく尻餅を搗こうとして辛くも蹈みとどまったのであった。