Classiques japonais avec furigana
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ぜにがたへいじとりものひかえ
銭形平次捕物控(三)酒屋火事
野村 胡堂
Lisez 銭形平次捕物控(三)酒屋火事 (ぜにがたへいじとりものひかえ) de 野村 胡堂 (のむらこどう) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 146 725 caractères · 298 écrans
翌る朝黒木長者は、夜の明けると一緒に飛起きました。誰もその辺へ姿を見せぬ前に、地蔵様の台石の上を調べてもみ、一つは人肌のように暖かいと言う、朝の内の地蔵様の肌に触れてもみたかったのでした。
真に抜き足差し足という言葉を文字通り、五十男の黒木長者が地蔵様へ忍んで行く形は、まことに不思議な見物でしたが、幸いまだ誰もその辺には姿を見せません。
塀に付いて廻ると、朝の光をほのかに受けて、眼の前に立たせ給うは万有還金の尊い地蔵尊と――思ったのは、黒木長者の幻覚で、台石の上に立っているはずの人肌地蔵は、薄じめりの大地に顛落して、その辺は踏み荒した人間の足跡だらけ。
「あッ、これはどうじゃ」
地蔵の肩に掛けた黒木長者の手は、人肌どころか、なんと氷のように冷たい感触に顫え上がっているではありませんか。
変った事は、それだけではありません。地蔵様の様子に驚き呆れる長者の耳へ、
「た、大変ッ、誰か、誰か」
と喘ぎ喘ぎ塀の内から叫ぶのは紛れもない、庭男の権助爺の声です。
今開けたばかりの裏門を押して横っ飛びに飛込むと、大地の上に尻餅をついた権助は、麩に飽きた金魚のように口をモグモグさせながらも、あまりの事に声を得立てず、両手の指を交る交るに突き出して、前方に立ち塞がる、海鼠塀の土蔵を指すのでした。