Lecture japonaise

Classiques japonais avec furigana

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ぜにがたへいじとりものひかえ

銭形平次捕物控(二)八人芸の女

野村 胡堂

Lisez 銭形平次捕物控(二)八人芸の女 (ぜにがたへいじとりものひかえ) de 野村 胡堂 (のむらこどう) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.

N2 · avancé · kanji et kana modernes · 144 562 caractères · 291 écrans

Aozora Bunko

その日は、昨夜までは行列に見えなかった、お多福の面を冠った男が一人、潮吹の面を冠った市五郎の向うに廻って、これがまた実によく笑わせます。踊りがうまいわけでも何でもありませんが、ひどく巧妙に要領を掴んで、さんざん潮吹に踊らせた上、毎度落をさらって行くのです。

潮吹はこの好敵手を迎えて、全く大車輪でした。囃子の陽気な笛太鼓につれて、二つの扇が胡蝶のごとくもつれ、少し猫背になって、足を挙げ、尻を振り、首をすくめ、縦横無尽に踊り抜き、巫山戯散らします。

その頃の神田祭、二百六七十年後の今とは、まるっきり違ったものに相違ありませんが、人々の浮き立つ心と、引っ掻きまわすような賑わいには変りはありません。

行列が神田橋外を通る時一度、一と廻りして、本町通りを帰る時一度、潮吹の踊りが、少し悪巫山戯と思うほど猛烈になった時、お多福は何気ない様子で近付いて、その面をグイと剥ぎ取りました。

中から現われたのは、言うまでもなく薄禿の市五郎の顔。

「何、何をするんだ。冗談じゃねえ」

猛烈な剣突を食わせて、あわてて、揃いの袖で汗を拭きながら、四方を見廻しましたが、お多福はもうその辺にはおりません。