Lecture japonaise

Classiques japonais avec furigana

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ぜにがたへいじとりものひかえ

銭形平次捕物控(一)平次屠蘇機嫌

野村 胡堂

Lisez 銭形平次捕物控(一)平次屠蘇機嫌 (ぜにがたへいじとりものひかえ) de 野村 胡堂 (のむらこどう) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.

N2 · avancé · kanji et kana modernes · 156 866 caractères · 318 écrans

Aozora Bunko

銭形平次捕物控

一

一

新吉は眼の前が真っ闇になるような心持でした。二年越し言い交したお駒が、お為ごかしの切れ話を持出して、泣いて頼む新吉の未練さを嘲るように、プイと材木置場を離れて、宵暗の中に消え込んでしまったのです。

――父親が聴いてくれないから、末遂げて添う見込みはない。出世前のお前さんに苦労をさせるより、今のうちに切れた方がいい――というのは、十八や十九の若い娘の分別というものでしょうか。

――父親が不承知は今に始まったことではない、版木彫りの下職に、なにほどの出世があろう――と詰め寄ると、お駒は唯もう父親の不承知一点張で、取付く島もないような冷たい顔をして、――これからは逢っても口を利いておくれでない、つまらない噂を立てられると、お互のためにもならないから――そんな念入りな事まで言って、美しいおもかげだけを残して、一陣の薫風のように立去ったのでした。

「新さん」

不意に、後ろから声を掛けた者があります。

「…………」

黙って材木から顔を離して振り返ると、肩のあたりへ近々と、お駒の継母のお仙が、連れ子の少し足りない定吉と一緒に、心配そうに立っているのでした。濡手拭を持っているところを見ると、町内の銭湯へ行った帰り、夜遊びに出た愚かな倅と一緒になったのでしょう。