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あさひのよろい

あさひの鎧

国枝 史郎

「時事新報」1934(昭和9)年8月25日~1935(昭和10)年3月16日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 239,520 字 · 475 页

青空文庫

傍には牛車が幾台となく置かれ、幾箇かの檻も置かれてあり、その中には猿や山猫や狐が、これも何んの不安もなさそうに、寝たり起きたりしてノンビリとしてい、軛から放された牛や馬は、草を食み食みさまよっていた。

いくらか不安そうに見えているのは、頼兼の妾の千寿だけであった。

飛天夜叉桂子の性質と、その力量とを知らないかららしい。

千寿は二十二、三らしかった。下ぶくれのふっくらとした顔、のびやかな地蔵眉、おとなしい一方の女性らしかった。

朱丸は頑是ない六歳だけに、母の膝によって眠っていたが、濃い睫毛が下瞼を蔽うて、どこやらに寂しそうなところがあった。

「妾のために、このような騒ぎに……」

ふと、千寿はそう云った。

「何んと申してよろしいやら……」

「何んの」

と、桂子は笑いながら云った。

「わたしたちの酔狂からでございますよ」

酔狂ということは云えるかもしれない。

内裡攻めがあると聞いた夜、攻められる人々の家族なりとも、助け出して落としてやらねばと、そう決心した桂子は、部下を指揮してそれにかかった。

某の公卿の一族を、宇治の方へ落としてやったのも、某の豪族の一族を、南海の方へ渡らせたのも、資朝卿や俊基卿へ、いち早くそれとなく密使を送って、事件の発覚を知らせたのも、みんな桂子その人であった。