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あさひのよろい

あさひの鎧

国枝 史郎

「時事新報」1934(昭和9)年8月25日~1935(昭和10)年3月16日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 239,520 字 · 475 页

青空文庫

悲痛の頼春

ここを今、頼春は歩いているのであった。

悲痛の頼春

盲目の彼には見えなかったが、馬酔木の叢が小山かのように、ワングリと高くもりあがって茂り、そういう茂りが前後左右に、起伏をしているその中ほどを、彼はさまよっているのであった。

その頭上にはや槲が、半かけの月光や星の光を、枝葉の隙からわずか零し、野葡萄や木賊や蕁麻や芒で、おどろをなしている地面の諸所へ、銀色の斑紋を織っていた。

枝などに引っかかったためであろう。冠っていた編笠も今はなく、盲目となって人相変わり、美男をもってうたわれた顔が、妖怪のような顔になっていたが、ところどころに負傷して、流れ出た血がこごって黒く、色づいている手や足と共に、光の斑紋裡へはいった時、もの恐ろしく眺められた。

これが命の竹の杖で、おぼつかなさそうに足もとをさぐり、的なしに彷徨っているのであった。

多治見ノ四郎二郎国長の館が、六波羅勢に攻め落とされ、勝ちほこった勢がひきあげた時、彼も雑ってひきあげたが、しかし六波羅の探題へも帰らず、自分の館へも帰って行かず、甲胄ぬぎすて庶人となり、右近ノ蔵人の官位も捨て、あの愛していた妻も捨て、武士も捨て名も家も、財宝も金も一切捨てて、浄罪と※悔と試練との旅へ、誰にも告げずに出て来たのであった。