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あさひのよろい
あさひの鎧
国枝 史郎
「時事新報」1934(昭和9)年8月25日~1935(昭和10)年3月16日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 239,520 字 · 475 页
十津川の錦旗
積もった雪を足で蹴上げ、親に似ぬ子の鬼子の大弥太は、寒さも物かは走って行く。
と、嬰児の泣き声がし、それをあやす女の歌声が聞こえた。
泣きそ、な泣きそ
和子よ和子よ……
十津川の錦旗
「や」
と大弥太は足を止めた。
こんな場合ではあったけれど、寒気のはげしい雪の夜に、嬰児の憐れな泣き声と、母親らしい若い女の、これも憐れな歌う声を聞いては、立ち止まらざるを得なかったらしい。
「どこだ?」
と、四辺を見廻してみた。
辻堂が道端に立っていて、黒い影を雪に印していたが、その中から声は来るようであった。
過ぐる日大塔宮護良親王が、戸野の館へおいでの前に、休息あそばされた辻堂なのである。
(乞食だな、嬰児をかかえた乞食)
惻隠の心はなかったが、女に眼のない大弥太であった、どんな女の乞食がいるのか? こう思って辻堂へ近寄って行った。
狐格子へ手をかけて、格子の間から覗き込んだ。
とたんに竹の杖が突き出された。
「わッ」
と、大弥太は脇腹を抑え、三間ばかりケシ飛んで、クルクルと二度ばかりブン廻ったが、そのまま倒れて、ノビてしまった。
森閑として物音もない。
が、遙かの谿間から、ゴ――ッという音が幽かに聞こえた。