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あさひのよろい
あさひの鎧
国枝 史郎
「時事新報」1934(昭和9)年8月25日~1935(昭和10)年3月16日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 239,520 字 · 475 页
妖怪屋敷
小次郎はしたたか怯やかされたので、いくらか顫えを持った声で、そう慇懃に問いを発した。
「飛天夜叉なのよ。飛天夜叉の中の一人! ……さあ名は桂子とでも云って置きましょう」
「…………」
小次郎は刺されたように飛び上がった。
がすぐに膝を揃えて坐り、まぶしそうに桂子の顔を見た。
素晴らしい奇蹟的の飛天夜叉の噂を、以前から彼も聞いていたからであった。
京都二条の外れにあたって、宏大な古館が立っていた。
その周囲をかこんでいるのは、榎や槻や朴の巨木で、数百年を閲しているらしかった。
門はあったが崩れていた。
築地も荒れて崩れていた。
それは桂子の館であった。
すっかり桂子の家来のようになって、――むしろ寵愛のお小姓のようになって、桂子のお供をして小次郎が、その館へ行った時には、日が暮れて夜になっていた。
二人が玄関へかかった時、可愛らしい美しい十六ばかりの娘が、屋内から出て来て二人を迎えた。
と、その娘は小次郎を見たが、やにわに桂子へ縋りつき、声を上げて泣き出した。
「浮藻や、どうしたの、え、浮藻や?」
桂子は驚いてその娘へ云った。
妖怪屋敷
浮藻は顔を桂子の胸へ埋め、しゃくり上げながら呟くように云った。