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あさひのよろい
あさひの鎧
国枝 史郎
「時事新報」1934(昭和9)年8月25日~1935(昭和10)年3月16日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 239,520 字 · 475 页
「桂子のお姉様!」
桂子はかなたで振り返った。
「千寿様、朱丸様! ……ご無事で……さあさあ! ……今こそお別れ! ご縁さえござれば……また逢われます!」
「お姉様ヨ――ッ」
「朱丸様ヨ――ッ……可愛い可愛い朱丸様ヨ――ッ」
「いざ千寿様朱丸様、お供仕るでござりましょう」
と、右近太が進み出て声をかけた。
「機会失っては一大事、いざいざ早うご出立」
「はい」
こうしてこの一団は、大藪地をくぐり密林を分け、美濃を目ざして落ちて行った。
沼のこなたでは鬼火の姥が、突っ立ち上がって叫び出した。
「やア退き鉦が聞こえるわ、さては桂子め落ち行く気か! ……やア松明の火が見える! ……一点、二点、……十点、二十点……縦隊をなして移って行くわ! ……はてな、あの光、こりゃ不思議? ……光はあるがが立たぬ! ……息づきもせぬ、生命がない! ワッハッハッ、火ではないわい! 飛天夜叉めのまどわしじゃ!」
その時ドッと喊声が起こり、数百の騎馬武者が轡を揃え、この大藪地の密林を分けて、移動する松明の方角へ、走って行く音が聞こえて来た。
「一大事、こりゃどうじゃ!」
また姥は叫んで地団太を踏んだ。