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あさひのよろい

あさひの鎧

国枝 史郎

「時事新報」1934(昭和9)年8月25日~1935(昭和10)年3月16日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 239,520 字 · 475 页

青空文庫

(凄いのう)とまた思った。(俺の方がやられる! 俺の方がやられる!)

かつてこれまで一度として、かわされたことのない一薙ぎであった。それをどうしてかわしたものか、盲人の身でありながら、眼にもとまらず引っかわし、寂然として立っているのであった。

(凄いのう。俺の方がやられる!)

範覚は恐怖を感じたが、さすがに逃げようとはしなかった。

左へ左へ左へと足音を忍ばせて廻り込み、隙を狙ってもう一度、足を薙いでやろうと構え込んだ。

と、どうだろう、相手の盲人は、両眼さながら見えるかのように、これも左へ左へと、同じように廻り込んだ。

(変だ。いや変ではない。……こやつ見えるのだ! 眼が見えるのだ!)

範覚はそう思った。

(それにしても何者だろう?)

なお範覚は執念深く、左へ左へと廻り込んだ。

と、そういう範覚の耳へ、鬼火の姥のいる沼の方から、けたたましい退き鐘の音が聞こえ、つづいて烈しい喊声が聞こえ、やがてこっちへ大勢の者が、走って来る音が聞こえて来た。

(どうしたのだろう? 何か起こったな!)

そう思った暇もなく、木の間をくぐり藪を踏み越え、数十人の人影がなだれて来た。