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あさひのよろい
あさひの鎧
国枝 史郎
「時事新報」1934(昭和9)年8月25日~1935(昭和10)年3月16日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 239,520 字 · 475 页
――そこを頼春はさまよって行った。
(お味方すべきか、辞退すべきか?)
なお迷っているのであった。
(道理よりすれば、禁裡方に、お味方すべきが至当ではあるが……妻が……六波羅殿の……斎藤殿の……)
このことを思えば迷うのであった。
六波羅探題の奉行職、斎藤太郎左衛門利行の娘が、かれ頼春の妻なのであった。
添って三年経っていた。
美女と美男との夫婦であり、人が羨んで噂するほどの、まことに仲のよい夫婦でもあった。
(禁裡様方にお味方すれば、六波羅方に背かねばならぬ。……舅の斎藤太郎左衛門殿にも……)
このことが彼には苦痛なのであった。
(禁裡様方お勝ちになれば、六波羅殿は亡ぼされ、太郎左衛門殿もお討ち死に……どんなに女房は悲しむだろう。……お味方破れれば我が身は死ぬ。……どんなに女房は嘆くだろう。……勝っても負けても辛い身の上だ。いっそこのような計画の中へ、わしを引き入れてくれなかったら。……)
自分を口説いて厭応なしに、このような計画の中へ引き入れた、土岐十郎頼兼や、多治見ノ四郎二郎国長が、いまさら怨めしく思われるのであった。
鹿の鳴き声が聞こえて来た。
露を踏み、萩を分け、妻を恋い、野の中に、鳴いている鹿の声であった。