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あさひのよろい

あさひの鎧

国枝 史郎

「時事新報」1934(昭和9)年8月25日~1935(昭和10)年3月16日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 239,520 字 · 475 页

青空文庫

この頃になって浮藻ばかりか、桂子までが小次郎を恋し、そのため妹と争いさえし、今夜に至っては、あのありさまであった。

(小次郎が生きておればこそだ!)

で、殺そうとするのであった。

彼は朴訥で忠誠で、桂子と浮藻とのためであったら、何んでもやろうと思っていた。

桂子と浮藻とが彼にとっては、この世界の一切であった。

そんなにも大切なご主人姉妹が、小次郎を恋し合って争いをする!

これは堪えられないことであった。

以前には妹の浮藻ばかりが、小次郎を恋してつけ廻した。

それだけでも右衛門には苦々しく思われ、小次郎を白い眼で見たものであったが、現在は何んと桂子までが――飛天夜叉の総帥ともある桂子までが、小次郎を恋して狂態を演ずる!

(殺さないでどうするものか!)

鉞の刃を月光に照らし、右衛門は小走り出した。

右衛門の姿の消えたのを見て、早瀬はそっと木蔭から出で、谷の向こう側の燈火を目あてにまたあぶなっかしく辿り出した。

泣きつかれた嬰児は死んだかのように、早瀬の腕の中で眠り出した。

早瀬自身も空腹であったが、この子の空腹を思いやっては、道を急がなければならなかった。