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あさひのよろい

あさひの鎧

国枝 史郎

「時事新報」1934(昭和9)年8月25日~1935(昭和10)年3月16日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 239,520 字 · 475 页

青空文庫

小次郎と右衛門

ギョッとして小次郎は足を止めた。

と、その前へ大鉞を下げた大蔵ヶ谷右衛門の姿があらわれた。

「右衛門殿か、いかがなされた」

そう云った小次郎の声の冴え冴えとしていることは!

四辺を黒い壁のように囲み、空をさえ黒い雲のように蔽うて、この辺りは木立が茂っていた。

それだのに銀色の月の光が、漏斗形に上から降りかかり、小次郎の全身を照らしているのは、いったいどうしたというのだろう?

男性としての完璧の美! それを備えている小次郎を、闇へ封じて隠してしまうことが、天がどうにも惜しく思って、そこだけへ巨大な隙間を作り、月光を降らしたに相違ないと、そう思うより仕方なかった。

そんなにも小次郎は美しくなっていた。

小次郎と右衛門

「小次郎!」

と右衛門は鉞を振り上げ、小次郎へ身近く逼って行った。

「元から気に入らねえ汝だった! が、今ではもっと気に入らねえ! ……汝がこの世に生きている限り、ご主人桂子様ご姉妹に、争いの絶える間ねえと睨んだ! ……不愍ではあるが命取るぞオーッ」

真ッ二つ!

ふり下ろした鉞!

隕石が空から落ちたようであった。

が、小次郎の端麗な姿は、毫も彫刻的な形を崩さず、二間あまりのうしろに立っていた。