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あさひのよろい
あさひの鎧
国枝 史郎
「時事新報」1934(昭和9)年8月25日~1935(昭和10)年3月16日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 239,520 字 · 475 页
間もなく蜒る長い紐が、板壁を伝って、床へ下り、薄蒼く月光の射している中を、鎌首を立て尾を揺すり、頼春と浮藻との方へ泳いで行くのが見えた。
一人は気絶していて何も知らなかった。
もう一人は盲目であった。
蝮はやがて二人の周囲を、円くウネウネと廻り出した。
桂子は谷を横切っていた。
袈裟太郎がその前を走っていた。
桂子のかいこんでいる長柄の刃へ、雑草が触れて切れて散った。
袈裟太郎の注進で右衛門が、小次郎を殺そうとしていると聞き、桂子はどんなに驚いたことか!
(だいそれた奴、不届き者、止めて聞かずば手討ちにしてくれよう!)
血書き写経も行もなかった。
夢中で飛び出して来たのである。
二人の走る谷の木々は、嵐も吹かないに騒立っている。
猿猴の群れが枝を伝い、谷を渡っているからである。
この頃、小次郎も走っていた。
(右衛門め随分つかれたろうよ)
で、すこし足をゆるめ、肩ごしに背後をふりかえって見た。
右衛門のひっさげている鉞が、大儀らしく重そうに、地上一尺を、前後に揺れているのが見えた。
(ムダだ)
と、小次郎は気の毒そうに思った。
(トシヨリに鉞、荷が勝っている。