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あさひのよろい
あさひの鎧
国枝 史郎
「時事新報」1934(昭和9)年8月25日~1935(昭和10)年3月16日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 239,520 字 · 475 页
小次郎に誰か斬られた!
戒壇のこわれる音!
「小次郎様ア――ッ」
「もう大丈夫! ……しっかり縋って! ……もう大丈夫!」
「やらねえ――ッ」
杖!
払った刀光!
荒莚が千切れた!
誰か馳け行く!
「逃げた――ッ」
「追え――ッ」
足音!
足音!
丑の刻の鐘の鳴った時、桂子は写経を引き裂いて捨てた。
「右衛門!」
と桂子は突っ立ち上がり、館の庭にひざまずいて、手をついていた右衛門を睨んだ。
「そちの無謀を止めようと、走って行って時を費やし、血書きの写経のわしの行、三分の一を余したぞ!」
鬼火の姥はこわれた戒壇を、口惜しそうな眼で睨みながら、その横に気抜けして地面へ坐り、バカのようになっている範覚へ云った。
「調伏も祈祷もありゃアしないよ。……もう何もかも目茶苦茶さ」
その時丑の刻の鐘が鳴った。
比叡山延暦寺の大塔の座敷に、お若い一方の貴人がおわした。
丑の刻の鐘の音をお聞きあそばされるや、
「断行!」
と一言仰せられた。
後に大塔宮護良親王――尊雲法親王におわしました。
やがてこの年の九月となり、野山が紅葉で飾られるようになった。
河内国赤坂の地へ、楠木正成が城を築き、宮方ご加担武家討伐の、義兵を挙げたのはこの頃であった。