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あさひのよろい

あさひの鎧

国枝 史郎

「時事新報」1934(昭和9)年8月25日~1935(昭和10)年3月16日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 239,520 字 · 475 页

青空文庫

誰も返事をしなかった。

誰も知っていない証拠であった。

比叡山の裏山で起こった事件! ……あの事件以来浮藻と小次郎とは、行方不明になったのであった。

今の桂子その人は、あの頃の桂子とは違っていた。

(あの頃のわたしの心には、悪霊が憑いていたのだよ。自分の子のような小次郎に恋して、妹の恋を妨げたなんて、いったい何んということだろう)

今ではこう思っているのであった。

(どうぞして二人をさがし出して、わたしの手で夫婦にしてやりたいものだ)

死骸があったというわけではないので、浮藻も小次郎もどこかの世界で、生きているらしいということは、桂子にも感じられているのであった。

午後桂子は館を出て、宛なしに野路をさまよった。

(鬼火の姥め、どこにいるかしら?)

その居場所をつきとめようと、桂子は館を出たのであった。

正成が赤坂へ城を築いて、北条氏討伐の兵を挙げた。で、いずれは関東軍が、これを攻めるに相違ない、ではわしも出かけて行って、いろいろ策動してやろうと、鬼火の姥が眷族をひきいて既にその地に向かったそうな。――ということを桂子が聞き、

(男同志の合戦は、お侍さんたちに任せておけばよい。