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あさひのよろい

あさひの鎧

国枝 史郎

「時事新報」1934(昭和9)年8月25日~1935(昭和10)年3月16日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 239,520 字 · 475 页

青空文庫

が、年来の讐敵ともいうべき、鬼火の姥めがまた出しゃばって、そんな態度をとるというのなら、わたしとしては黙っていられない。出かけて行って抑えてやろう)

そこで出かけて来たのであった。

姥めがどこに住居しているか、桂子にも見当がつかなかった。

(敵の根拠が知れなかったひには、何をやるにも不便だよ。どうともして居場所をつきとめなければ)

こう思ってこの地へ着いた日から、その捜索にとりかかったのであったが、今にそれが知れないのであった。

千早の方へつづいている雑木林を分けて、右衛門一人だけを供につれて、桂子は歩いて行った。

兎が草むらから飛び出したり、野猫がむささびを食っていたりしていた。

林をぬきんでて聳えているのは、四千尺に近い金剛山で、秋日に蒼い山肌が、瑠璃のような色に澄んでみえた。

不意に嬰児の泣き声が聞こえた。

「まあ」

と、桂子は眉をひそめ、右衛門の方をふり返った。

「どこかで赤ん坊が泣いてるのね」

「はい、赤ん坊が泣いておりまする」

右衛門も首をかしげた。

と、子守唄の声がきこえて来た。

泣きそ、な泣きそ、和子よ和子よ

泣けばお山で猿もなく。

三抱えほどもあるらしい、巨大な鉄のような老杉が、この林の王かのように、根をひろげて立っていたが、その蔭から子守唄は聞こえるのであった。