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あさひのよろい

あさひの鎧

国枝 史郎

「時事新報」1934(昭和9)年8月25日~1935(昭和10)年3月16日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 239,520 字 · 475 页

青空文庫

あやしながら、彼女は行くのであった。

彼女にとってこの嬰児は、もう何物にも換えがたい、大事なものになっていた。

(この子を立派に育てあげて、わたしの跡目を継がせなければならない。土岐の跡目を、土岐の跡目を!)

こんなことをさえ思っているのであった。

そうして彼女は、この嬰児の母の、憎い敵の殺人鬼へ、蝮を噛みつかせてやったことに、喜びを感じているのであった。

(蝮の毒が全身に廻って、あの殺人鬼は死んだに相違ない。この子に代わって母親の敵を、わたしは取ってやったのだよ)

彼女は足を急がせた。

と、不意に木蔭から、三人の野武士があらわれた。

「いい女らしいぞ」

「まだ若いな」

「業病じゃアないか、顔に垂れがある」

「手足を見ろ、綺麗で満足だ」

「お顔拝見」

「担いで行け!」

早瀬の周囲をとりまいた。

しかし早瀬は驚きもせず、垂れ布の内側で苦く笑った。

(わたしの懐中に蝮がいるってこと、この人達は知らないそうな)

しかし、その時淫らの様子の、若い女が二人あらわれ、野武士たちの間へ雑ったので、かえって早瀬は度胆を抜かれた。

桂子は先を歩いていた。

と、一座の丘があり、その裾を向こうへ廻った時、芒の中に野武士の死骸が、一つころがっているのが見えた。