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あさひのよろい

あさひの鎧

国枝 史郎

「時事新報」1934(昭和9)年8月25日~1935(昭和10)年3月16日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 239,520 字 · 475 页

青空文庫

「これこれ」

と周章てて止めたのは、敵娼中将の白絹のような顔へ、虎髯の顎をしばしば寄せて、中将にひどく嫌われながら、自分では一人でいい気持ちになっている、千葉介貞胤で、

「それでは敵を褒めるようなものじゃ、とんと自慢にはならぬではないか」

「ほんにの」

と右馬助は気がついて、

「そういうこともあったなれど、われら恐れず搦め手へ廻り、木戸を焼きはらいなだれ込んだので、行在所は煙ぜめよ。……で城は落ちたというものじゃ」

こうしてどうやらバツを合わせた。

少し離れた一所では、

「昔平ノ重衡は、囚人として東海道を、関東へ降る道すがら、何んとかいう駅で白拍子の千寿と……で、わしも……行こう、亀千代」

と、天王寺路の大将の、仙馬越前入道が、淀の遊君亀千代の繊手を、爪のもとまで毛の生えている、熊のような手でグッと握り、奥へしょびいて行こうとするのを、同じ路からやって来たところの、狩野彦七郎左衛門ノ尉が、左の手をムズと掴み、

「こっちへ来い、こっちへ!」

と、反対の方へ引き入れようとした。

「あれ抜けまする、腕が抜けまする!」

と、左右の手を両方へ引っ張られ、亀千代は身もだえして悲鳴をあげた。