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あさひのよろい

あさひの鎧

国枝 史郎

「時事新報」1934(昭和9)年8月25日~1935(昭和10)年3月16日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 239,520 字 · 475 页

青空文庫

そうして縁へ両手をつくと、端近にいた高坂出羽権守の耳へ、何やらヒソヒソ囁いた。

平素はそのような細々しいことには、決して留意しない陸奥守ではあったが、恐怖らしいものに捉えられている今は、そんなことにさえ心が引かれ、

「権守権守」

と声をかけた。

「何事じゃな、何か起こったかな?」

「怪しい男女を捕えましたそうで」

と権守は物々しく云った。

「怪しい男女? ほほうどこでな?」

「拙者の陣前を忍びやかに、赤坂城の方へ歩みおりましたそうで」

「なるほどそれは怪しいの」

「斬りすてましょうや、捕え置きましょうやと、意見を訊ねに参りましたような次第で」

「さような者は斬りすてた方がよかろう」

「美しい若い男女の由で」

「ほほう」

と、陸奥守は微笑した。

「男などはどうでもよいが、女が美しいとは聞きずてにならぬの」

「しかし」

と、傍にいた三河入道が、

「飛天夜叉などであろうものなら……」

「なんの飛天夜叉が男などを連れて、陣前などを通るものか」

「いえいえ」

と、その時まで座中を眺めながら、話を聞いていた鬼火の姥が、

「飛天夜叉めは手下の一人、風見の袈裟太郎と申す者をつれて、忍び込んだと申しますことで」