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あさひのよろい

あさひの鎧

国枝 史郎

「時事新報」1934(昭和9)年8月25日~1935(昭和10)年3月16日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 239,520 字 · 475 页

青空文庫

「面白いからやっつけようよ」

「鬨をつくってやろう。夜明けの鬨を」

でも仄かに薄青く、他界的幽暗な光の輪に、身のまわりを囲まれながら、小次郎と浮藻との烈しい恋は、なおこの時も続いていた。

烈しい、濃やかな、むさぼるような、二人のくちづけは長くつづいた。

しかしこの時清朗とした、朝の鶏の啼き声が響き、それに誘われたか諸方から、鬨をつくる鶏の声が聞こえた。

ハッと小次郎は正気に返った。見れば幽暗として薄青い光も、二人の周囲から消えてなくなり、暗い寒い納屋の中に、今は素早く突っ立ち上がった、鬼火の姥の御幣のような姿が、細く高く立っていた。

「おのれ――ッ」

と怒った小次郎は、猛然として飛び上がった。

「穢わしや汝姥! ……たばかられたか残念至極! ……死におろ――ッ」

と、躍りかかった。

が、いまだに姥の力が、彼に影響しているものと見え、足にも腕にも力がなく、後方へドッと仆れてしまった。

と、その時戸が開いて、出て行く姥の姿が見えた。

「遁がしてなろうか、おのれ待て姥! この恥辱晴らさで置こうか!」

小次郎は追って出た。

館も庭も混乱していた。

一所では篝火の火が、亭に燃えついて火事を出してい、一所では軍兵同志が、夜討ちと誤信し、疑がい合い、同志討ちをして斬り合っていた。