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あさひのよろい
あさひの鎧
国枝 史郎
「時事新報」1934(昭和9)年8月25日~1935(昭和10)年3月16日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 239,520 字 · 475 页
と悲鳴をあげ、範覚は奥へ逃げ込んだ。
廊下の曲がり角を曲がろうとして、範覚は背後を振り返って見た。
白布が後を追って来ていて、数間の背後に身長高く立ち、頭を天井へ届かせそうにしながら、走って来るのが見てとられた。
「助けてくれ――ッ」
と悲鳴をあげて、範覚は夢中で廊下を走った。
なおこの時も土岐小次郎は、部屋の扉を内から開けようとして、扉へ体をたたきつけたたきつけ、
「この戸をあけろ、開けてくれ! ……浮藻よ浮藻よ力を落とすな! ……この小次郎がきっと助ける!」
と、喚き声をあげていた。
するとこの時まで頑丈に、微動さえしなかった固い扉が、外側から自ずと錠が外れて開いた。
「浮藻よ――ッ」
と小次郎は驚喜し、廊下へ弾のように飛び出した。
「アッ」
白布が柱のように、すぐの眼の前に立っていて、それがユラユラ揺れながら、顔にあたる辺を上下に戦がせ、頷くような表情をしたが、やがて忽ち廊下の一方へ、辷るように走って行くではないか。
浮藻は医師の冷たい指が、額へ触れたと感じた時、これがこの世の最後だと思った。
「神様!」
と思わず口の中で云った。
(いいえ、妾には小次郎様こそ!)