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あさひのよろい

あさひの鎧

国枝 史郎

「時事新報」1934(昭和9)年8月25日~1935(昭和10)年3月16日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 239,520 字 · 475 页

青空文庫

不意に女の声が聞こえた。

「夜食のお粥たけたかえ?」

声は社殿の縁から来た。

若い女がそこにいた。

縁に腰かけているのであったが、丈延びた草が胸の辺りまで届いて、半身を蔽うているがために、人がいるとも見えなかったのである。

それは飛天夜叉の桂子であった。

「ああもうソロソロたける頃さ」

鬼火の姥は眼も上げないで云った。

「お前さん一人で食べるにしては、その夜食多すぎはしないかえ」

そう桂子は笑いながら云った。

「なんの一人で食べるものかよ、あの子にもやらなけりゃアならないし、この子にもやらなけりゃアならないのだよ」

「どこにそんな子供いるのだえ?」

「まあ黙って見ているがいいよ。今に沢山の子供たちが、ガツガツとお腹をへらしながら、闇の中から素っ飛んで来るから。……それよりお前さんそんな所にいずに、ここへ来て火にでもおあたりな」

こう云うとはじめて鬼火の姥は、社殿の方へ眼をやった。

「行きたいけれど行けやアしないよ」

桂子は暗い中で微笑した。

「そんな恐ろしい眷族が、お前さんの周囲にいるんだものねえ。……蛇だの蝦蟇だの……恐や恐や!」

「ふふん」

と姥は鼻で笑った。