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あさひのよろい

あさひの鎧

国枝 史郎

「時事新報」1934(昭和9)年8月25日~1935(昭和10)年3月16日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 239,520 字 · 475 页

青空文庫

と、少し寂しそうに蓬生は云い、

「京の地へ行ったが最後、一月二月は帰らぬが普通、もし帰ったら病気か何かで……」

と、やはり寂しそうに云いついだ。

「あまりお姉様が穏しく、お小言おっしゃらないからでございますわ」

仲のよいこの二人の女は、姉妹のようにさえ見えるのであり、呉服は事実蓬生を呼ぶに、お姉様と呼んでいた。

蓬生の良人、この家の長男、戸野大弥太が父にも叔父にも、いや一族の誰にも似ないで、放蕩であり無頼であることが、父、兵衛の苦労の種、乱心の原因になっており、蓬生の陰気の種でもあることに、呉服はとうから感付いていたので、蓬生に同情しているのであった。

「先達様」

と、蓬生は云った。

「あなた様の勝れたご祈祷で、ねじけた男の心持ちをお治しくださることなりますまいか」

「さあ」

と、若い先達は、おおらかな微笑を頬にうかべ、貞節であり、苦労性らしい、蓬生の顔を眺めたが、

「すべて加持とか祈祷とかいうものは、受ける人の心の信不信によって、効験があったりなかったりします。……兵衛殿の病気の治られたは、心に信仰がありましたからで、……そなたの良人大弥太殿とやらには、一度も逢っておりませねば、その性質もとんと不明、従って信仰のありなしなども。