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あさひのよろい

あさひの鎧

国枝 史郎

「時事新報」1934(昭和9)年8月25日~1935(昭和10)年3月16日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 239,520 字 · 475 页

青空文庫

この日頃の尾籠の振る舞い! ……それにもかかわらず御自ら、頼むぞよとのご一言! 兵衛身にとり生々世々の誉れ! ……お心安うこそおぼしめせ、戸野の一族身を粉に砕き、ご奉公仕るでござりましょう」

額からは流るる汗!

肩がこまかく顫えている。

雪を刎ね返して延びた竹に、払い落とされた雪の音が、窓のあなたから聞こえて来た。

立ち聞きしたらしい男の姿が、妻戸の蔭から廻廊の方へ動いた。

と反対の扉の蔭から、女の姿が素早く出て、その男の袖を掴んだ。

「大弥太様、立ち聞きされたな」

「誰だ? ……や、呉服殿か!」

「大弥太様、何んとなさるるお気じゃ?」

「何んとしようとわしの勝手じゃ! ……そういうそなたも立ち聞きされた筈じゃ!」

「立ち聞きしました、立ち聞きしました! ……聞けば何んとあの先達様は、おそれ多い大塔宮様!」

「わしもそれ聞いて身が顫えた! ……が、これこそ絶好の機会!」

「何んだとえ? さあその訳は?」

「云わぬ! 云うだけの義理もなし! ……えい放せ! 袖を放せ!」

「放さぬ、何んの放しますものか! ……心よこしまのお前様、おそらく何か慾心にかられて、……」

「何を囈言! えい放さぬか!」