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あさひのよろい

あさひの鎧

国枝 史郎

「時事新報」1934(昭和9)年8月25日~1935(昭和10)年3月16日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 239,520 字 · 475 页

青空文庫

「では死んではいないのか」

「気絶しているだけじゃ、そこで活じゃ。……エイ!」

と、一つ気合を入れた。

「ムーッ」

と、大弥太は呻いたが、

「人殺し――ッ」

と、不意に叫び、バタバタと手足をもがかせた。

「こやつ、何んじゃ、恩知らずめ! 助けてやったのじゃ、人助けじゃ! それを何んぞや、人殺し――ッとは!」

範覚は怒って大弥太の頬を、ガンと一つ喰らわせた。

「わッ、杖だ――ッ、そいつでグーッと腹を突かれた、脇腹をよ! ……まだ痛むわまだ痛むわ! ……や、あなた方は? ド、どなた様で?」

はじめて正気づいた大弥太であった。

いぶかしそうに二人を見た。

「汝を助けた恩人よ」

「熊野三山の別当職、定遍僧都にお眼にかかろうと、夜をかけて行くわしら二人に、逢ったお前さんは幸福者さ」

鬼火の姥も見下ろしながら云った。

その翌日から戸野兵衛は、溌剌と活動を開始した。

まず黒木の御所をつくり、大塔宮を奉戴し、四方の山々に関を設け、路を切りふさいで往来を吟味し、叔父竹原八郎入道へ、今回の事情を申しやった。

竹原入道は直ちに伺候し、一味誠忠の志を披瀝し、さらに謹んで言上した。

「戸野の館もさることながら、わたくし館はより手広にこれあり、しかも要害嶮岨にござれば、わたくし館へお移りくだされば、万事好都合かと存じまする」