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あさひのよろい

あさひの鎧

国枝 史郎

「時事新報」1934(昭和9)年8月25日~1935(昭和10)年3月16日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 239,520 字 · 475 页

青空文庫

「それそれ」

と、大弥太はけしかけるように云った。

「うかうか宮方などに附こうものなら、竹原の家は滅びるぞよ」

この時芒の原の小松の蔭から、竹の杖をついた乞食の姿が、音も立てずにあらわれた。

それは土岐頼春であった。

首を垂れ肩をちぢめ、竹原兄弟と大弥太との方へ、芒を分けて寄って行った。

盲目の眼の辺りが落ち窪んでいて、そこへ黒い隈が出来ていた。

盲目の乞食が近寄るとも知らず、大弥太は二人へそそのかすように云った。

「俺はな、親父の兵衛に反いた、そちたちも親父に反くがいい、由来老人というものは、古いものを好んだり、古いことに執着を持つものじゃ。そこで宮方などというのであるが、若いわれらはそうはいかぬ、現在の勢力に眼をつける。そこで俺は武家方よ! ……そこで宮家を、な、宮家を!」

この時頼春は大弥太の背後へ、すでに近々と迫っていた。

竹の杖が持ち直された。

が、不意に嬰児の泣き声が、小松の蔭からけたたましく聞こえた。

「や」

と、大弥太は振り返った。

「嬰児が泣いてる、あの嬰児の声は?」

瞬間に竹の杖が突出された。

「わッ」

しかし辛く外して、大弥太は横手へ飛び退いた。