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あさひのよろい

あさひの鎧

国枝 史郎

「時事新報」1934(昭和9)年8月25日~1935(昭和10)年3月16日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 239,520 字 · 475 页

青空文庫

「桂子様は桂子様、浮藻様は浮藻様、小次郎様は小次郎様と、バラバラに離れておいでなさるのね」

「こまったことでございますのね」

「こればかりはどうも他人の口からはねえ」

「いっそ別れておしまいになったら……」

「それが思い切って出来るようならねえ」

「三人めいめい苦しみながら、一緒に住んでおいでなさるなんて、これこそ本当に生き地獄ね」

「恐ろしいことでも起こらなければよいが」

二人の女が噂しているように、桂子と浮藻と小次郎は、こんな時にも離れ離れにいて、牽制しあっているのであった。

桂子は芋ヶ瀬の荘司の館が、屋根だけを木の間に見せている、その方角へ眼をやりながら、野宮の腐ちた拝殿の縁へ、腰をかけているかと思うと、小次郎は野宮の右側に、ぼんやりと地面を見詰めながら、所在なさそうに足踏みをしてい、浮藻はそれとは反対の側の、栗の木の傍らに佇んで、枝に甲虫でもいるのであろうか、上向きながら木の幹を、指で叩いているのであった。

風見の袈裟太郎はいなかったが、大蔵ヶ谷右衛門は例の鉞を、例のごとくに提げて、檻に入れられた老いた豹のように、何か口の中で呟き呟き、同じ所を往ったり来たりしていた。