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あさひのよろい
あさひの鎧
国枝 史郎
「時事新報」1934(昭和9)年8月25日~1935(昭和10)年3月16日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 239,520 字 · 475 页
「わたしたちが、あそこまで刺戟たのだから、きっと兵を出すとは思うけれど、今日の間に合わなかったとこから推して、少しばかり気がかりだよ」
煙りを袖で払いながら、桂子はいくらか心配そうに云った。
「兵を集めるに暇をとったか、寄せて来る道に故障があったか、その加減でござりましょう」
「そうだねえ、そうかもしれない」
この時焚火の火の光の輪から遠く離れて、月光ばかりがわずかに明るい林の奥の方から、大蔵ヶ谷右衛門が姿をあらわし、物憂そうに歩み寄って来た。
「右衛門や、どこへ行っておいでだ?」
すぐに桂子が声をかけた。
「心持ちがムシャクシャいたしますので、悪魔っ払いに風にでも吹かれようと、あちこち歩き廻って参りました」
小次郎へ憎悪の瞳を向け、舌打ちをしながら右衛門は云い、焚火をへだてて、小次郎と向かい合い、伏し眼をしながら小次郎の様子を、絶えず悲しそうに心配そうに、注意している浮藻の横へ、浮藻を護衛するかのように坐った。
「右衛門!」
と、桂子は不意に鋭く、咎めるような声で云った。
「血が、鉞に血がついているね!」
肩をもたれ合わせ手を取り合い、いかにも仲がよさそうに、焚火に近く坐っていた、幽霊女も鶏娘も、袈裟太郎も小次郎も浮藻までも、この声に驚いて一斉に、右衛門の方へ顔を向けた。