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あさひのよろい
あさひの鎧
国枝 史郎
「時事新報」1934(昭和9)年8月25日~1935(昭和10)年3月16日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 239,520 字 · 475 页
それだのにこの頃のお姫様ときては、煩悩の塊り、嫉妬猜疑の坩堝! そのようなものに成り下がられ、わたしたちを不安と焦燥とに……のう袈裟太郎、そうではないか?」
「さあ」
と袈裟太郎は当惑したように、桂子の顔を盗み見た。
でも、云いにくそうに曖昧に云った。
「ただわたくしといたしましては、一本の白布にさえ自由自在に、変身あそばされる霊的お力を、どうぞお姫様には失わぬようにと、それだけが願われるのでござりまする」
桂子は黙っていた。
しかしかなりに痛いところを、突かれたような様子であった。
なまあたたかい風に乗って野の花の香が渡って来た。
「右衛門や」
と桂子は云った。
「そういう殺人をした悪人なら、鉞を投げて足を斬ったもよいが、でもこれから殺伐なことは、なるべく謹んでしない方がいいねえ。……さて今は何刻かしら? 夜明けにはまだまだ間があるらしいが、でもこういう物騒な所からは、一刻でも早く宮様ご一行は、ご発足なされた方がいいようだよ。……ねえお前……」
と鶏娘へ云った。
「お前の持ち芸を出しておくれ」
「はい」
と鶏娘は立ち上がり、気軽く林から出て行った。
また林はしずかになり、梟の啼き声が聞こえて来たりした。