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あさひのよろい

あさひの鎧

国枝 史郎

「時事新報」1934(昭和9)年8月25日~1935(昭和10)年3月16日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 239,520 字 · 475 页

青空文庫

「お待ち!」

とその時宮家の御声が、静かに厳かに発せられた。

怒りと悲哀とで宮家の御顔は、鋭く険しく変わっておられたが、今は沈着に冷静に、冥想的にさえ戻っておられた。

「芻堯の詞までも捨てずという、古語の意味を活かすは今じゃ! ……かかる場合にわしをわしと知って、濁りのない女の声をもって、妥当の注意を与えてくれた! ……詭計ではない天の告げじゃ! ……信じてよかろう、中津川の方へ行こうぞ!」

片岡八郎を討って取り、気負い立った玉置の荘司の勢が、

「宮家の御首級いただけや」

と、先を争い算を乱し、小山を巡って押し寄せて来たのは、それから間もなくのことであった。

と、小暗い林の中から、男女の囃す声が聞こえて来た。

※(歌記号、1-3-28)雨の降る夜の蝸牛

角ふりわけて歩めども

塀がつるり

壁がつるり

つるり、つるり、つるり、つるり

「アッハッハッ」

「ワッハッハッ」

※(歌記号、1-3-28)うらめしや判官殿

わが身とちぎりかわしながら

ほかに愛しき女房を持ち、

今日もご酒宴

あすもご遊山

「アッハッハッ」

「ワッハッハッ」

そうしていかにも楽しそうな、手拍子の音や足拍子の音が、それにつづいて聞こえて来た。