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あさひのよろい
あさひの鎧
国枝 史郎
「時事新報」1934(昭和9)年8月25日~1935(昭和10)年3月16日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 239,520 字 · 475 页
範覚が姿をくらましたことは、彼女にとっては大打撃であった。
「範覚よ、どこにおいでだ!」
またもや姥はこう呼びながら、部屋部屋の襖を開けはじめた。
この頃範覚は京都の町を、銀河を頭上にいただきながら、朗らかな顔をして歩いていた。
(悪魔から離れたというものさ)
金剛杖を軽くつき、浮き立つように歩いていた。
(新しい生活がはじまります)
寝しずまった町はひそやかで、両側の家々は扉も蔀も、門も窓もとざしてしまって、火影一筋洩らしていなかった。柳の老木が立っていて、しきりに枯れ葉を散らしているのが、月光に針でもこぼれるように見え、それの根もとの草むらの中で、虫が声かぎり鳴いているのが、秋の深夜を浄化してみせた。
(あの婆さんとツキアウことによって、何を俺ら得をしたかしら?)
こんなことが考えられた。
(女のいやらしさを知ったばかりさ)
(では今後は)
と考えた。
(女の綺麗さを知らなけりゃアならねえ)
(オヤオヤオヤ)
と立ち止まった。
(ここはいったいどこなんだろう?)
寂しい町の外れであって、築地が側に立っていた。
「ほウ!」
と驚いて声をあげた。
「若い女が仆れているぞ――ッ……見ろ! もうこんな好運にぶつかってしまった!」