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あさひのよろい
あさひの鎧
国枝 史郎
「時事新報」1934(昭和9)年8月25日~1935(昭和10)年3月16日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 239,520 字 · 475 页
……が、何の利益があろう! ……武家が武力で取った権じゃ、宮方がそれを取り返そうとなら、やはり武力で取り返さねばならぬ。……坊主、山伏の修法なんどで、何んの政権がとられようぞ! ……しかるに当今日本の武士、ほとんどことごとくが武家方に属し、わずかに宮方に属するもの、そちたち一族の土岐と多治見、これでは大事とげられまいがな。……六波羅殿へ返り忠し、宮方の陰謀内通なされ! 身の安穏たもたれるばかりか、恩賞かならずありましょうぞ! ……いとしいそなたの奥方の、早瀬殿の心持ちにも同情せねばなりますまい! 早瀬殿のお父上は、六波羅の奉行でござりまするぞ!」
云い云い頭上の柄長の御幣を、姥は揉み立て揉み立てした。
暁の風に姥の裳裾も、袖も白髪も靡き翻り、波が砕けて作られた水泡が、涌き立ち踊り騒ぎ立つように見えた。
「妻! ……早瀬! ……おおおお妻よ! ……お前を思えば、お前を思えば! ……」
限りなく愛している妻であった。
この妻のことを思えばこそ、大義も士道も捨てようかと、心を惑わしているほどであった。
その妻のことを云われたのである。頼春は心をとり乱した。