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あさひのよろい
あさひの鎧
国枝 史郎
「時事新報」1934(昭和9)年8月25日~1935(昭和10)年3月16日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 239,520 字 · 475 页
早瀬はいつまでも見詰めていた。
でも泣きはしなかった。
「これこそ平和の消えない世界! ……そう、それではこの妾も……」
一旦立ち去った理智光院が、夫婦の非人の身の上を案じ、ふたたび藪蔭を訪れた時、体をもたせ合って夫婦の非人が、息を引き取っているその傍らに、女の童が泣いているのが見られた。
草の中に蝮が動かずにいた。
女仙
理智光院は涙をこぼしながら、その二つの屍骸へ云った。
「有縁の人達と思うによって、ここの墓地へ葬ってあげましょう。……女の童はわたしが育ててあげます」
こうして長老が女の童の手を引き、庫裡の方へ帰って行った後は、しばらく寂然と人気がなかった。
しかしその時杉の梢から、白猩々が飛び下りて来て、頼春の死骸から不具車の中へ落ちた、古び汚れた巻軸を掴んだ。
そうしてまたも梢へかけ上がり、枝から枝を伝わって、どこへともなく行ってしまった。
それから幾日かの日が経った。
吉野大峰の大岩石層に、昼の陽がまぶしく当たっていて、少しへだたった岩の間から帯のように垂れている滝の周囲へ、虹の輪を綺麗にかけていた。
数十枚の畳でも敷いたような、偏平な大岩の中央に、雪のような塊りが二つあった。