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オリンポスのかじつ
オリンポスの果実
田中 英光
「文学界」1940(昭和15)年9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 75,277 字 · 147 页
急に悄気てしまったぼくが片隅でひとりダンスを拝見していると、いつの間にかぼくの横に、油もつけていないバサバサの長髪を無造作に掻きあげた、血色の悪い小男の青年がやって来て立っていました。袴もつけず薄汚れた紺絣の着流しで、貧乏臭い懐ろ手をし、ぼんやりダンスをみているけれど、選手ではないし、招待側の邦人のひとりかとおもい、「今晩は、どうも――」と挨拶をすると「いやいや」と周章て、ぼくの顔をみて哀しい薄笑いをして、「ぼくは単なる見物人ですよ」と言いました。
畳みかけて、「米国はもうながいんですか」ときけば、「いやまだ上陸して一週間位ですよ」「なにか勉強に」と続けると、「いえいえ遊んでいるんです。日本は煩さくって」「こちらに御親類でも」と尚煩さくいうと、「いやなにもありません。行き当り飛蝗とともに草枕」と最前の浪花節の句をいってから笑いました。ではさっきから何処にもぐっていたのかと不審になり、それとなく尋ねようとした刹那、ぼくは彼の懐中にねじこまれている本が前田河広一郎の≪三等船客≫なのを見て、ハッとして、「文戦はやはり盛んにやっていますか」ときいてみると、「えッ」