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オリンポスのかじつ

オリンポスの果実

田中 英光

「文学界」1940(昭和15)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 75,277 字 · 147 页

青空文庫

五

お友達のなかでいちばん背の高いあなたが、子供のように跳ねてゆくところを、ぼくは、拍子抜けしたように、ぽかんと眺めていたのです。その癖、心のなかには、潮のように、温かいなにかが、ふツふツと沸き、荒れ狂ってくるのでした。

船室に帰ってから、ぼくは大急ぎで、選手名簿を引き出し、女子選手の処を、探してみました。すると、あなたの顔ではありますが、全然、さっきの魅力を失った、ただの田舎女学生の、薄汚く取り澄ました、肖像が発見されました。そこに (熊本秋子、二十歳、K県出身、N体専に在学中種目ハイ・ジャムプ記録一米五七)と出ているのを、何度も読みかえしました。なかでも、高知県出身とある偶然さが、嬉しかった。ぼくも高知県――といっても、本籍があるだけで、行ったことはなかったのですが、それでも、この次、お逢いしたときの、話のきっかけが出来たと、ぼくには嬉しかった。

五

翌朝から、ぼくは、あなたを、先輩達に言わせれば、まるで犬の様につけまわし出しました。船の頂辺のボオト・デッキから、船底のCデッキまで、ぼくは閑さえあると、くるくる廻り歩き、あなたの姿を追って、一目遠くからでも見れば、満足だったのです。