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オリンポスのかじつ
オリンポスの果実
田中 英光
「文学界」1940(昭和15)年9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 75,277 字 · 147 页
二十六
亡霊のような儚なさで、あなたはまた誰にか罵られたのか、両掌で顔をおおい、泣きじゃくりながら近づいて来るのです。
ぼくと向きあっても、あなたは覆っていた掌を放さず肩をふるわせて泣いているのでした。次の瞬間、ぼくは夢中であなたの肩を叩き、出来る限りのやさしさを籠め、「秋ッペさん泣くのはおよしよ。もう横浜が近いんだ」
すると、あなたは顔から手を放し、子供みたいに、こっくりして領いた。その時の、あなたの瞳の柔軟な美しさは、今も目にあります。「笑って」といったら、ほんとに、あなたはにっこり笑った。
ぼくには、それだけが精一杯だったのです。
あの夜、それだけで別れて横浜まで、お逢いしなかった。けれど、あのときの別れが、今日迄も続いている気がします。
二十六
その翌日――横浜に着く四日前――ぼくは酒を飲みました。
前の夜、あなたに言い足りなかった口惜しさで、珍しく朝から晩まで飲んでいました。そのうち酔っ払ってしまって、船の酒場に入ってくる誰彼なしを取っ掴まえては、管をまき盃を強いていました。
日が暮れると、いつの間にかホッケエ部の船室に入りこみ、ウイスキイの瓶を片手に、時々喇叭呑みをやりながら、「レエスに負けたって仕方がねエよ。