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オリンポスのかじつ

オリンポスの果実

田中 英光

「文学界」1940(昭和15)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 75,277 字 · 147 页

青空文庫

十九

昼食を、所長さんの御招待で頂き、サアビスに踊ってくれたのが、当時のスタア、ロジタ・モレノ嬢でした。まるで、人形のような端正さと、牡鹿のような溌刺さで、現実世界にこんな造り物のような、艶やかに綺麗な女のひとも住むものかと、ぼくは呆然、口をあけて見ていました。最後に、ステップ、ウインク、投げキッスと、三拍子、続けてやられたとき、その濡れたような漆黒の瞳が、瞬間、妖しくうるんで光るばかりに眩ゆく、ぼくは前後不覚の酔い心地でした。

そのとき、やはり、心持ち唇をあけてみていた、あなたの小さい黄色い顔が、ちらっとぼくの網膜を掠めました。

帰りには、チャイニイズ・グロオマン劇場で、オニイルの奇妙な幕間狂言という映画の封切に招待されました。その時はもう、接吻の長さだけ気になる、ぼくは、痴けさでした。

十九

また暫くして、日本選手一同が揃って、ベニスという下町へ遊びに行った日がありました。附近で、いちばん大きなダウンタアオンで、途中の風光の美しさも類のないものでした。

碧い海に沿った、遠くに緑の半島が霞み、近くには赤い屋根のバンガロオが、処々に、点在する白楊の並木路を、曲りまわって行きました。