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オリンポスのかじつ

オリンポスの果実

田中 英光

「文学界」1940(昭和15)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 75,277 字 · 147 页

青空文庫

十七

ぼくは、その風景を、男子の本懐だと、感動して、眺めていた。殊に、あの日、塔上に仰いだ万国旗のなかの、日の丸の、きわだった美しさは、幼いマルキストではあったぼくですが、にじむような美しさで、瞳にのこりました。身体がふるえる程、それは強烈な印象でした。

大きな声ではいえぬことです。その日、フウバア大統領の前を、颯爽と、分列行進をしていった女子選手達のうちに、あなたのりりしい晴れ姿をちらっと垣間見ました。はるかな美しさで、ぼくは、そッと、瞼のうちに、蔵っておいた。

十七

オリムピックのなかでも、青リボンと呼ばれる、壮麗なレガッタのなかで、ぼくには、負けて仰いだ、南カルホルニアの無為にして青い空ほど、象徴的に思われたものはありません。

スタアトラインに並んで「ムッシュ。エティオプレ」「パルテ」という出発の号音を聞いたときは、ただ漕いだ。並んだ、剣橋クルウのオォルの泡が、スタアト・ダッシュ、力漕三十本の終らないうちに、段々、小さくなり、はては消えてゆく。敵の身体がみえていたのは、本当に、スタアト、五六本の間で、忽ち、グイグイッとなにかに引張られているような、強烈な引きで彼等の身体は、ぼくの眼の前から、消えてゆき、あとには、山のように盛りあがった白い水泡がくるくる廻りながら、残っている。